大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(う)2664号 判決

被告人 中山実

〔抄 録〕

なお弁護人は、当審公判において、本件は典型的な別件逮捕の事例であり、当初から大橋あや子殺害の嫌疑をかけながら適法に身柄を拘束するだけの資料もないことから、まず本人から自白を得る目的で、別件である田嶋はるに対する僅か三万五千円の詐欺容疑で逮捕勾留したものであって、かかる違法な別件逮捕勾留によって得られた本件自白には証拠能力がないと主張するので検討する。

なるほど、原審および当審で取調べた右関係証拠によれば、大橋あや子の失踪時の状況やこれに関する被告人の不審な行動、なかんずく同女名義の預金証書を使っての詐欺事件が発覚したことなどから、同女の家族らのみならず、捜査官らにおいても、被告人が同女の消息について重大な事実をかくしており、あるいは同女を殺害しているのかも知れないとの疑いをも持ったであろうことは想像に難くなく、必ずしもこれを否定できないところである。しかし、本件の捜査の経過は、捜査担当者において、同女の失踪後一年以上も消息がつかめない時点で、その家族から、被告人が加藤孝之から大橋あや子名義の預金証書を使用し、同女から依頼されたといって三五万円を借受けたまま、逃げまわって返済しようとしない旨の聞込みを得たが、これを詐欺事件として逮捕状を請求するだけの資料、ことに被害者の供述調書などが未だ整っていなかった段階で、別に田嶋はるに対する同様預金証書を用いた三万五千円の詐欺事件について逮捕状請求の資料が整ったので、これによって逮捕状を得たうえ、加藤孝之に対する件を同種余罪として右二件を併せて取調がなされることになったところ、これら詐欺事件の態様からすれば、これに使用し、あるいはその疑いのある預金証書の所有者で被告人に借金のあっせんを依頼したという大橋あや子から事情を聴取するため、その所在を解明することは、事件の成否を決定する重要なボイントと考えられたので、逮捕後、もっぱらそれについての被告人からの事情聴取とその裏付けに捜査の主眼が置かれたところ、被告人のいう場所では同女を発見することも消息を知ることもできず、更に追及するうち、同女を殺害したことを自白するに至ったので、同女に対する強姦殺人等被疑事件として被告人を逮捕勾留したというのであって、右の捜査経過に照らすと、加藤孝之に対する詐欺事件を同種余罪として取調べることが許されるのはもちろん、事件の成否を決定する重要事項として、大橋あや子の所在を追及するのはむしろ当然のことであり、もっぱらこの点について取調べた結果、大橋あや子殺害の犯行を自白したからといって、これがひるがえって別件逮捕にあたるものとして非難を受くべき筋合はないものというべきであるから、弁護人のいうところは当を得ない。

(矢部 石橋 佐々木)

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